心情として、名もなき人たちが作った歴史とか権力の外で生きた人たちとか、敗者の美学に惹きつけられますね。絵を描くことを生きる軸に、出逢った状況に対して積み重ねた経験、今持てる最良の力をぶつけていきたい。ここまで生きてきて、計画通りにならなかった部分の面白さが自分を形づくっている…そういう解放感が心地いいんですよね。
西日随一の遊廓で名を馳せた紅灯の花街、熊本二本木。
2000年より遊廓街をテーマに絵画制作して十数年になる。
川を挟んで対岸に位置する地で生まれ育った私にとって紅灯の街・二本木は華やかで妖しい魅力を放つ世界だった。その遊廓も1958年に幕を閉じ、熊本の歴史から姿を消した。川向こうから聞こえるさんざめきに憧れ、思いを馳せた子ども時代。五十歳を前にデザインから絵の世界へ活動の場を移し、あの日の二本木の情景を胸に刻み、抱き続けたいと想起し描き始めた。
人々を惑わせ、狂わせた夢の街。
遊廓は虚実皮膜の色で彩なす異界。にもかかわらず、瞬間人間の真の姿が現れ、懸命に生きた者達が心を通わせ、幸せで温かな時が流れる悦びを感じたことでしょう。華やかに振る舞いながら、その不条理な運命に涙した遊女達。二本木遊廓に生きた人々への愛と敬幕の憧憬を込め、人間の意思や人間性、光と影の歴史文化、人間ドラマを今後も描いていきたい。
※NHK・熊本朝日放送などで「二本木遊廓」ドキュメント放映